騾黒愛(Lark roa)

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しあわせな生活

この鉄工所に入社したのは、いまから四年ほど前の話。アホな高校を卒業した私が唯一就職できたのがこの工場だった。

少数精鋭、といえば耳ざわりがいいが、単純に人材が常に不足していて、休憩室と名のついたソファだけの部屋は空いていて、とても快適だ。ほかの社員は「昔は悪かった、シンナーをやっていた、」などと下らない話をしている。

飲酒も喫煙も、ましてや違法薬物なんてのは下らない。先週はこの町でベトナム人が違法薬物の販売で逮捕された、と夕方のニュース番組で見た。翌日の工場はこの話題で持ち切りだったけど、ドラマのように警察官が突入してきたり、音信不通となった社員がいた、なんてことはなく、いつものように過ぎていった。

周囲の社員は決まって「底辺、底辺なんだ」と自嘲する。なにが底辺なのだろうか。三角形の公式か何かだろうか、アホな私にはわからない。はたまた隠語だろうか、”テイヘン”というドラッグかなにかあるのだろうか。

「ストレス」「3K」「スピード」

よくわからない単語を聞き流しながら、ヒヤリハット報告書に記入していく。今回も何もなかった。さすが「ご安全に!」とチョキを交わしている我々だけある。

今日も気持ちの良い仕事ができた。晩御飯のコンビニ弁当がうまい。

最高に幸せな人生だ、と改めて思った。