朝とも夕方ともつかぬ光に、瞬きで挨拶をする。 又、来たのかね。などと、曙光に嫌味を言いたくもなる、頭がずきん、ずきんと痛む。 アスピリンがあったかな、と暫く蒲団の中でもぞもぞする。薬棚を見に行けば、すぐに答えが判ること位、分からなくなる程は…
此処に一人、動物が居た。 この物語の主人公というべき、一人の人間が。 彼は全く恥の無い生涯を、十八年もの間送ってきた。罪悪を犯すことも、恥辱にさらさるることさへ、終始無しに。 しかし悲しいかな、主人公が革命を齎すか、または他人に依って変へられ…
十五の頃、私はしんに清かった。聖典で語られる赤子のように、阿呆で或ったのです。己に纏わりつく厭な縄、千切られることの勿い鎖、そうして、其の身に科された不定期刑にさえも、鈍感でいたのでした。 つまらない黒い髪を、ただただ伸ばして、服からは見え…
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「人は、女ごきぶりの悲しみなんて、ついぞ知ることがないまま生きるのですよ。」 やわらかに髪を乱す、明朝の清潔な風に、その声を聴く。 地面が歪むけがらしい暑さに、涼しく凛とした風が疲れることもなく寄り添う。 その人は、私の、ごきぶりの世界の中で…
ある日の丑の刻のことである。 私が酒の酔いも少し醒めた心地で、退屈の煙によごされ乍ら、煙草屋の店先でぼうっ、として居ると、後ろから、 「兄さん、退屈しのぎのカフェインはいかが。いかが。」 と、声がする。振り返ると、疲れ切った様な、如何にものん…
ほとほと、厭になる。 文字は、書いた瞬間から腐っていく。図書館の本が読まるる度に汚れていくように。 青魚の如く疾く劣化す。 少し格好を付けて言って了えば、文字とは「花」である。 誰にも名を知られず、勝手都合に人様のベランダへ種を飛ばし、芽を出…
至高の肴を見つけた。 方々の食物をつまみ乍ら吞んできたが、遂に一つの答えに辿り着いた。 能書きが長い性分もここらにして置いて、結論に入ろう。 「失敗」で或る。 具体例を挙げやう。 己の失敗、たとえば番組の途中で寝て了った、寝坊で約束を破った、等…
零 電話 石川県七尾市で、娘が居なくなった、という旨の電話が事務所に掛かってきた。 同じ子を持つものとして、また探偵として。必ずや見つけ出す、と決めた。 美濃の事務所から約三時間ほど車で北上した所に、伝え聞いた屋敷が或った。 時刻は夜の六時。 …
安楽死。 末期の病気の患者にっ毒物が投与されたり、辛くていっそ、殺してくれ。 そんな人々におススメの制度。パスポートが有っても重病がなけりゃ...と嗤われる。 安楽死安楽死と云ふけれど。実際に「安楽死制度」が導入されると如何変わるのか、考へた。 …
ブロットは今日もはこぶ。 誰の口に合うか、自分の口にはガソリンが合うな、と思ふ。 家内への土産は是れにしやう、 社員連中のゴミで造ったガス、是れだ。 きたないけれど精一杯の、ガスをあげやう。
藝術、物種と云うものは、吐瀉物であると思ふ。 口に入れて、嚥下する。消化されてゆくものは自らの身体から抜け落ち、散っていく。 消化しきれない脂もの、味の濃いもの、ヒト科ヒト族以外には毒にさえなるもの、 手違いで通ってしまったアレルゲン、方々の…
AM1:00。 「122番、ひと箱」 ふ、と手がとまる。はてな、と客が小首をかしげる。 「560円です。」 そう言って、バーコードをスキャンした。 客は自動レジで会計を済ませ、帰っていった。 高くなったなあ、と思う。ひと箱で560円もするのか。 あれ、…
「夕子さんって、小説を書いているんですね。」 「龍」と名乗る柄シャツの男は言った。 「読みましたよ、精神、腦外科医批判、巨大敵を相手にして、人気がない。 夕子は「ははは、、」とマニュアル通りに気が違った癈人の相手をした。 一見、八九三のクラン…
日本とは、殊更不可思議な国だ。 海底火山が隆起して、島となる。 方々から鳥が其処へ糞をしに来て、その糞の中の種が芽吹き、日本となった。 日本と云ふ名も、珍妙で或る。 通説には、十人の声を同時に聞いた、だの額から七色の光線を放った、だの言われる …
Yは医者の家系に生まれた。 苦しむ患者を直す両親に尊敬を抱いた。医者に成らうと思うた。 Yは所謂お受験をして、偏差値の高い学校へ入った。 「副教科?そんな入試に必要ないもの、やらないよ」 そう言って副教科の授業が始まると、Yは決まって抜け出し、算…
Yは医者の家系に生まれた。 苦しむ患者を直す両親に尊敬を抱いた。医者に成らうと思うた。 Yは所謂お受験をして、偏差値の高い学校へ入った。 「副教科?そんな入試に必要ないもの、やらないよ」 そう言って副教科の授業が始まると、Yは決まって抜け出し、算…
橙灯のもとで、酔客がふたつ。 「きみは何であんな醜女にお熱なのさ。」 と、背広を丸めて腕にかけた、ロイド眼鏡の男。 「醜女だと?いいや、確かにさうかも知れぬ、しかしね、お前に何が分かる。」 学徒にも見える、ブロンド・ヘアの男。 戀愛沙汰であらう…
男は、この頃腹の具合の良くないのを気にして、医者にかかることにした。 なんでも、噂では最高の名医なぞと称されていると云ふ。 想像よりも若い、青白いツラをした小僧が、件の医者で或った。 小僧は体躯に見合わぬ大きな椅子に、ちょこん、と腰掛けて居る…
「まったく、お前のロマンチシズム趣味にはあきれた。伊達男でも無いくせに、いちいちクサい芝居ばかり打ちやがる。第一、メロドラマのやうなに演じてみても、あんなもんは裏に興が醒めるやうな台本があって、そこに則ってただ役をこなしている丈けなんだか…
「まったく、お前のロマンチシズム趣味にはあきれた。伊達男でも無いくせに、いちいちクサい芝居ばかり打ちやがる。第一、メロドラマのやうなに演じてみても、あんなもんは裏に興が醒めるやうな台本があって、そこに則ってただ役をこなしている丈けなんだか…
「ミレーちゃん」が、母のあだ名だった。 17歳で私を産んだ。付き合っていた人とは結婚出来なかった。 その人が何をやっているかは知らない、知る必要もない。 3歳になるころに、繫華街の安物件に越した。 嬌声や罵声の喧騒を、未だに色濃く思い出せる。 私…
この一發が出れば、一發逆転で或る。 そう思うごと、流され。流す。堕りる。 一着ゴオルで大優勝、とまでは行かずとも、ブービー賞くらいには成れる筈。 牌と育て方次第で或るが。 放銃して計りでは、いずれ必ず空になる。 かと言って狙わずば、子の儘で、こ…
だうにも未来と云ふ物に関心が無い。 大きく変わるとは思へ無い。弾圧の中に在りながらクープは起こらない。 「運命」なぞと言い訳をして、酷な事実から背目する。衆目は地を這いつくばるのみ。 時折、此の不安定な既成事実どもが、一斉に無に帰すことを夢見…
テキトウな仕事に就いて、働いているけれど働いて居ないような心持で居る。 彼氏か彼氏じゃないか分からない人と一緒に暮らして居る。 躰に良いのか悪いのか分からぬものを食べて、飲んで。 嘘か真か分からぬことを抜かして、ヘラヘラとどちらともつかずの表…
Born on the earth by Mother Arrie. Though I'm not a messiah at all,She made me only by her. Not the damn semen. Not only when I find myself in trouble,Mother Arrie comes to me. She seldom speaks,But It's better than spoken words of wisdom …
此の瓶の中で、生き残らなければならない。殺されてもならない。 共食いから逃れて、血塗れの瓶の渦中で、高い壁を登ることも出来ずに、 只々丸くなるのみ。 此の身に宿した毒は、何の為なのだろう。他の者を殺す気もない。 何処にも吐き出せない、毒。 瓶の…
炉端に手向けられたあやめの花を見る毎に、ショウケイスの中の日々を思い出す。 鉄製のショウケイスには、二、三匹の同胞が詰め込まれていた。 売れていくもの、自分より売れ残るのが遅いもの。 やうやく売れてショウケイスの外へ連れ出されたとき、日光が眼…
此の瓶の中で、生き残らなければならない。殺されてもならない。 共食いから逃れて、血塗れの瓶の渦中で、高い壁を登ることも出来ずに、 只々丸くなるのみ。 此の身に宿した毒は、何の為なのだろう。他の者を殺す気もない。 何処にも吐き出せない、毒。 瓶の…
あーあ、あと一牌入ってくれば大物役だったのに。 リーチ、リーチしては流局。大層貧相な点棒である。 鳴いてはいけない。大物役はバレないやうに、こっそりと育てていくものだ。 他家に気付かれたら、どんな大物手でもすぐに台無しで或る。 配牌。 白が二枚…