殺し屋は個人事業主である。きちんと確定申告までしている。事業の内容は「音楽配信サービス」とした。
三年前の春、”サブスクの殺し屋”を始めた。月額定額4500円ぽっきり。殺し放題。いわゆる「流行りに乗った」のである。
はじめは(早かれ遅かれそろそろ自己破産するし、あがいてみるか)とあまりこの事業で儲けが出るとは思えなかった。
ーこの先は読者諸君、きみたちが思った通りである。
”サブスクの殺し屋”はすぐにインターネットの掲示板から話題になり、そこから申し込みがぽつぽつと、増えていった。
カード情報とマイナンバーの入力だけでいいというこのサービスは、人気が爆発した。表だって掲示板などに書き込まれることはなくなったが、ワイドショーでおおっぴらに宣伝をしてくれたことがデカい。皮肉なものだ。
収入も以前とは大きくことなり、くだらない建築アルバイトへも行かなくてよくなった。
殺しの依頼は、全く来ていない。笑える。ウケる。でもマジだ。
「他人をいつでも殺せる」という安心を得るために加入するお客様。
「他人に殺されないように」と防御のために加入するお客様。
噂は勝手にお客様がたてて下さる。絵文字や、隠語を使って加入したことをアピールしたり、近所でたまたま起きた殺人事件を”サブスクの殺し屋”の仕業だ、と吹聴したり。
お客様はマウンドに立ったはいいが、けん制球を投げてばかりいる。キャッチャーである”サブスクの殺し屋”にはボール球さえ投げてくれない。暇だ。
お客様どうし、今日も楽しく生活しているみたいだ。
私はその様子をインターネットから見ているだけで収入を得ている。
アホらしい。殺し屋なんてどこにもいないのに。
ご加入、お待ちしております。