ピエロの子供
人命を置き去りにした父は、ジャグラーが好きだったと聞いた。
ZIPの白犬が死んだやうな暑い車中。ニッカポッカの兄ちゃんが来なければ恐らく同じ運命で或った。
・読者諸君は、ここで幼児性愛者とか、兄ちゃんのことを揶揄するポーズを取っているだろう。どうしてなかなか。彼はメシアと言ってもいい人物だ。
彼が言ったことは、無駄な知識で飽和状態の現在ではあまり思い出せない。
しかし、彼がいわゆる「通報」をして呉れて、だうにか彼のサモエドのやうには成らずに済んだ。というのはなんども聞いた。
何故に、なのだろう。彼が不思議でならない。浅黒い顔と、海苔のやうな眉毛。
如何見ても、「ギャンブルをしにきたあんちゃん」にしか見えない彼が。
今更、父に恨み言はない。ギャンブルという薬物に溺れてしまった、犠牲者に過ぎないのだから。
兄ちゃんは通報したのち、姿を消した。雲消霧散。当然のことだ、青服に問いただされれば、ヒトと云ふものは不愉快、不都合を思い当たるもので或る。
喩えば、「誘拐の未遂」「違法博奕」、と枚挙する暇はこうして与えられているが、検挙する暇は如何やら忙しい公務員さまには無かった。
ギャンブルも薬物も、まったく惡いことで無い、と思ふ。
ダーウィンの猿の時代から脈々と受け継がれてきた優勢遺伝なのだ。
進化の過程で其れを棄てなかったと云ふことは、其程重要だったので或る。
飽くまで、「教科書」が正しければで或るが。
イエズスの格好をして、「幸せですか」なぞと問うて来る宣教師には厭と云ふ程会った。とんだノータリンだと思ふ。
幸福だの不幸だの論ずる、善人気取りの惡党に腦味噌をゆだねる気は無い。
幸せなぞと云ふのは、宿題をとっくに済ませてしまった夏休み気分の人間の言い分だ。
或いは、宿題に手を付けずに、ヴァケーションに出かけるヴァガボンドだ。
内実は空虚なものだ。死んでいないと云ふウツツが只、寝転がっている丈け。
・幸福論については尽きぬ言分が有るが、この辺りでズラかるとしやう。
乞食のもんぺのやうな文章に成って了う。これも「無学」の致すところに違いない。
主題に戻る。とにも角にも角ハイボールで、あんちゃんの行方を知り度い。
アイロニーに、知りたくない、とも思ふ。
彼には、宗教上の天使どもには到底無いやうな、根源的な美しさを感ずる。
其の美しさを穢して了うのを畏れて居る。絶対的なものは、時に人を縛る鎖ともなる。
此のやうなダブルスタンダードをかかえ乍ら、ピエロを演じるこの頃で或る。