ここが私の世界なのだ。なんと狭いものだろう。地球儀で見た日本より余程小さい。
自殺既遂をしたのは、14の頃だった。レアものの雪に喜ぶ同級生。騒ぐニュース番組。
すべてが空っぽで意味がない。ハッピークラッピーだとすら思う。
あらゆることが、外国で起きた戦争くらい、歴史上の武将くらい、価値がない。
TVではミュージシャンが「生きているのが素晴らしすぎる」だの歌う。
結局人は従属なのだ。何かに従って、しがみついて生きていく。
誰も彼も奴隷にすぎない。
解放運動をしようにも、この20数センチの足で何ができる。しょせん足手まといだ。
もっとも平等公正なものは死だ。
動物は生まれれば死ぬ。絶対に死ぬ。確実に死ぬ。
他人の役に立っても、愛し愛されても、ヒナを設けても、金を儲けても、死ぬ。
孤独から蟲毒におかされ、ついに法を犯した。
遅延にいら立つ人。お客様への謝罪のアナウンス。ささめ雪に嬌声をあげて笑う學生。
列の一番前で、ヒト科ヒト目の最先端を気取って、飛んだ。
人類は飛べる、と証明してしまった。
気が付くと病院だった、と噓つきはよく言うけれど、気が付くと、悲鳴と罵声だった。
ブレーキは、雪ニモ負ケズ。
ーただいま、お客様が線路内に侵入したため、確認を行っています。
その背後に、魑魅魍魎の呪いを聞いた。
職員に連れられて、救急車に乗せられる。ああ、なぜ医療があるのだろう。
なぜ生きたがらない者を延命することが善い事だと思うのか。
ー今になって、あの時ブレーキが上手く利かなければ、と回想する。
腕やら脚やらに白い布っきれをグルグルと巻かれて、治療が「成功」した。
後日、郵送されてきた一葉の手紙を見、慄いた。
先日の医療費につきまして…
破いて捨てても、事態は変わらなかった。
エルサレムの元凶が生れ落ちた日、拳銃を腰につけた青い服の男らに攫われた。
裸にされて、ヒナサキまでくまなく視姦された。姦淫の罪、とでも言うべきか。
あまつさえ衣類まで盗まれた。罪を犯した者だって、現にこうして石を投げている。
監禁を行われ、生理現象のすべてを監視された生活。
まったく、生活とは厭な かんじ だ。活き活きと生を送る。いいかげんだ。
師匠が走りをやめる頃、スーツの大人に伴われ、魔女裁判にかけられた。
当然のことのように、魔女と認められる。
ー主文、少年院送致とする。
ー医療費を払わず、かつ払う宛も親類も居ない。しかし被告人の年齢を慮るに、刑事責任を問うことは難しい。
人生を決めるのは人だ。間違いない、と思い知らされた。
次に年をとるまで、くらいでしょう。とスーツが教えた。
その後は、ひどく退屈なものであった。更生だ更生だと聞かされ、体操を強いられ、カウンセリングだの、真人間に変わるための「お勉強」だの。
しかし皮肉にも、感情をあまり出さない姿勢が先生方に気に入られたようで。
畑に茶摘みが蔓延る時分に、解放されることが決まった。
先生は「がんばれよ、二度と来るんじゃないぞ。絶対やり直せる。」と仰った。
何を根拠にそうも口から出任せに話せるのだろう、という疑問を先生に抱くことにも飽き飽きしていた。
そうして、ようやく茶摘みが現れた。
同窓の態度は、ただ睨みつけるのみだった。
ーしかしこう云ふ点に、今となり非常に人の味わい、とでもいうやうなものを感じる。
身体の自由が解放された今日このごろ、思想の自由に基づいて。
命をもって償う為のゴースト01を求めて、日々の仕事をこなして居る。
傍から見れば、真人間である。異状なし、とでも云ふべきか。
スイカを見て、青信号だといって素通りするような愚かさ。
核には、地球儀の中のマグマのような巨大な赤い血液が、ぶくぶくと沸騰している。