騾黒愛(Lark roa)

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まりあ様と云ふには余りに

 あのとき、死にきれればよかった。

両親がカトリックの熱心な信者で、「まりあ」と名付けたらしい。

いつか神の子を処女懐胎するとでも思っているのか?と疑問にすら思う。

19歳、大学一回生のとき。ワンルームの中でアルバムを見返していた。

そこには破顔する同級生。思いを寄せていた子。とても、イノセンスを感じた。

今の自分は、快楽に溺れて、怠惰。ギルティーと呼ばざるを得ない。

その対比が、夏の太陽と冬の雨の如く、明白に明暗を分けた。

 間違えたのだろうか。抗うことなく、自分が納得できる道に進んだというのに。

まったく贅沢なものだ、と自省をする。

選べば選んだことを後悔し、選ばざれば選んだことを後悔する。

と、格好をつけてしたためてみる。

 

 11月20日。農家でもないのに農薬を買い込んで、訝しがられながらも家に帰った。

アルコールと一緒に飲めば、天の国へひとっとびだ。

汚れて了った聖母など、俗物以下だ。純潔など、最早どこにもない。

 

 最期のぶどう酒を飲むと、強烈な吐き気に襲われた。

しかし、この血のぶどう酒を吐き出してしまえば振り出しに戻る。

制吐剤をどうにか流し込んで、ベッドに躰を横たえた。

「ああ、これですべて許される、じつは自死の罪は後付けなんだ。」

 

 遣いが吹くラッパの音が聞こえたと思い目を開けると、そこにいたのは白衣の天使。

通報したのはホームセンターの店員だった。

すぐに私は運び出されて、救急車に乗り、病院へ運ばれたという。

 と、ナースに聞かされた。

嘔吐で胃壁がただれているため、しばしの間入院と相成った。

 

天井の模様をただ見詰めながら、罪を思った。クライムではなく、シンの方の。

神さまにも、悪魔にさえも見放された。

 

 約一か月後、退院となり、大学へもまた通い始めた。

単位は教授や家族がかけあってくれたらしく、無事二回生になれた。

しかし、いまだに天の国へ旅行をしたい。

その為にはまず、イノセントな存在にならなければ。

聖母は、ずっとヴァージンだったのだから。