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人の不幸、ひいては命にまで便乗して、飯代を稼ぐ蠅が嫌いだ。
何が独占インタビューだ、何が悲劇の子供だ。
悪役は誰か、全くもってめくらで或る。ただゴドーを待ちながら、
来なかったら札代を盗んで終演。しかしゴドーは度々現れる。
食べ易いぐあいに怪我をしていたり、反撃が出来ないほど片輪になっていると、
そこにたちまち蠅がたかる。バズバズ、と羽を鳴らして飛び回り、可食部を探る。
親蠅から教えてもらったのか、好き嫌いなどせず食べ尽くす。
そして自身の消化器官で糞尿にしたものを、聾啞白痴の者に購入を強いる。
蠅はそこで強奪した金品なぞを用いて、やれ接待だのと洒落込み、酒呑み、嗜む。
随分と樂な商売である。
技術もいらず、自らになんの刑事責任も生じさせない。
法治の網目から侵入することができる、至極矮小な蠅の狡猾さには恐れ入る。
同じ動物とは思えないほどに。
蠅は直接手を下すことはない、巣食うことは有っても、救うことが無い。
人を介く者の失敗は糾弾され、ましてギロチンにかけられ、また金品をも奪わるる。
介くために行動して、「失敗」と決められて了ったのみであるのにも拘らず。
しかし蠅がギロチンにかけられたことが今だ嘗て有っただろうか。
手負いのもの、さらには既に息をしていない者の肉を頬張り、消化するのみの蚤。
卑小なものは、誰も其の余りのチンケさに目も金もくれない。
だが金を得ているのは事実である。
聾啞白痴の者はたんじゅんに、自動引き出し機としてのみ扱わるる。
自らの尿や分泌液、まして経血、精液なぞで商売をして居る蠅に、
聾啞白痴の者が反旗を翻すことが出来る日は一度すら来ない。