彼女は「こころの病気」と云ふ理由で会社を馘にされた。
それから、彼女は「こころの病院」に行った。
其処で著名な所謂「大先生」に掛かることにした。
こころの病気を改善して、またシノギを見つける為に。
こころの病院に行くと、「大天才の大先生」は彼女に診断を下した。
「暴力性パーソナリティ障害です。」
「この”ふつう錠”を一日三回、毎食後に服用してください。そうしたら、あなたの異常性、発狂、なんてものがすっかり無くなって、”ふつう”に成れますよ。お大事に。」
帰途につくと、彼女は公園の燃えるゴミ箱に”ふつう錠”をすっかり全て棄てて了った。
なんて書くと君たちは「暴力性パーソナリティ障害」は恐ろしい。
「精神異常者の行動は一考に値する。」「心神耗弱者の人権剝奪は急を要する。」
とこんな具合に、拡声器で喧伝したくてたまらない心持になるだろう。
しかしその手を下げてほしい。
彼女は未知の才能の持ち主で或った。そんなことを知る訳も無かったが。
「大天才の大先生」は洗脳教育のもとで医師免許を与えられ、洗脳教育の張本人である国家元首の名のもとに、治療と呼ぶ行為を行っていたので或る。
国家元首の閑口令によって、この機密は厳重に守られ、彼女を含む国民総てが、傍から見ると白痴の状態で暮らしていた。
国家元首は法を定めている。
第一条第一項
すべて国民は、等しく患者とする。そして患者は、病院へ行くことを義務とする。
其の「病院」なる施設で育ったのが、大先生、そして彼女を除いた全員で或った。
患者はその診療代に対して何も思うことは無かった。
その診療代は、ただ国家元首の懐にそのまま入るとも知らずに。
なぜなら、国民の祖父も、曾祖父高祖父も、すべてこの国で生まれ、病院で育ったためで或る。
第一条二項
すべて患者には、等しく国家元首金を与える。
さらに、国民には多額の「国家元首金」が支払われ、国民はその金でのみ生活をし、賭け事や薬物に耽っていたため、治療のお蔭様で救われ、巣食われていた。
しかし彼女だけは。
Ms.SPELL(綽名であり、本名はフーテンという)
彼女はこの「医療行為」そのものに疑問を感じた。
そうして政府転覆を企てた。国民、政府、遂には国家元首までにも。
第一条三項
内乱を起こす虞のある者については、国民、および患者と認めない。
Ms.SPELLが”非国民”であり、国家元首金の対象外で或ったことも彼女に影響を与えた。
亡命中の元軍人で或ったためである。
当然、国民は彼女を烈しく罵った。魔女狩りのように。
「腦足りん」「尻軽」「白痴」「薬物中毒者だ」
国民は何を押してでも彼女を黙らせなければならなかったのだ。
国家元首さまの元での幸せな生活の継続の為に。
彼女はもう、自分が尻軽だなどと触れ回られやうと、如何でも良かった。
如何にして国家元首を解雇に追いやるか、そのことで耳の穴が塞がるほど腦味噌がいっぱいで或った為とも彼女は言っている。
出来っこ無いって?全く的外れだ。とも。
未知の才能
彼女はすべての生きとし生けるものを操ることができた。「育ちすぎた豚」を除いて。
彼女は才能にすでに気づいていたが、富豪の国民達にはひた隠しにし続けた。
それが彼女が絵を描ききるための絵筆で或った。
戦争が始まった。
ゴリラは国中の家屋を破壊し尽くし、終いには「病院」も「国家元首堂」も破壊した。
ヒツジはただの色付きの餌として、壊れた家に散らばる金を満腹になるまで頬張った。
極めつけには…
一羽のスズメが国家元首を食べた。
国家元首はただの”バグ”に過ぎなかった。
最高に痛快滑稽なギャグだ。