生産者の顔
だうも、人と云ふものは著者と作品を分けて考えられないやうだ。
文豪が自殺した、だからこの作品は文豪の自伝で或る。
なぞと決めつける。
作詞者が堕胎した、だからこの曲は堕胎がテーマで或る。
歌手が逮捕された、だからあの歌は麻薬がテーマで或る。
人気者が自伝を出した。だから傑作に違いない。
なんちゃら賞作家の新作。だから傑作に違いない。
あの映画監督の新作。だから傑作に違いない。
あの事務所の新アイドル。だから傑作に違いない。
淫靡な漫画の著者は、淫猥に違いない。
そうして後に、好き勝手に文句を口にするので或る。
「あのバンドの新曲、最悪」
「あのアイドルの新メンバー、ブサイク」
「あの少女漫画の作者が男だったなんて…ショック」
「あの声優好きだったのに結婚とか…アニメのDVD割ります」
「私見によれば、作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった」
スーパーの野菜の生産者の顔はあまり見ない癖に、まったく、おかしな人たちですね。