あーあ、あと一牌入ってくれば大物役だったのに。
リーチ、リーチしては流局。大層貧相な点棒である。
鳴いてはいけない。大物役はバレないやうに、こっそりと育てていくものだ。
他家に気付かれたら、どんな大物手でもすぐに台無しで或る。
配牌。
白が二枚、發が三枚、あとは中さへ入ってくれば、小三元、もしくは役満の大三元にも化ける。
手番が進むが、手は進まず。仕様がなく下家の白で和了した。
2翻。ノミ手。あの大物手を育て切れなかった。
白、發。それのみ。
今だ最下位。
ラス局。親番。
好配牌この上なし。
イーピンを頭に、
白暗刻、發暗刻、壱弐参の萬子。南北。
来た。南北を処理して中を二枚引き入れて聴牌まで持っていければ、逆転の目は有る。
それしかもう逆転の術はない。
打北。
下家、打中。
まだ一枚目だ。あと三枚引ける可能性は大いにある。
対面、打中。
小三元から幾らかドラが乗ってくれさへすれば、まだ可能性はある。
上家、ポン。
鳴かれた。もはや小三元もない。
終わりだ。
引き入れた牌は北。裏目。誰を恨めばいいのだろうか。
他家か。否、恨むべくは自分自身の運のなさ、技術のなさ、そして無力さ。
そして出逢いの悪さ。
当然の打北。敗北、と云ふ二文字に相応しい。北ていく点棒、中、しあわせ。
下家のロン牌で或った。
中、風牌の北のみ。
点棒箱は底をついた。
ポンで引いて、ぶじ「中った」下家さんに「診察料」と書いた封筒を台の下から渡し、
帰途に就いた。
ポンで引いて中るなんて御免だ。白を發して中へ。
それだけを考えていた。
娑婆の事情など鑑みない、それが賭場。
ああ、いつ「きちんと」手筈通りに、親が子を産むやうに、出来るだろうか。
博徒は、新たな賭場を求めさまよう。