日本というもの
日本とは、殊更不可思議な国だ。
海底火山が隆起して、島となる。
方々から鳥が其処へ糞をしに来て、その糞の中の種が芽吹き、日本となった。
日本と云ふ名も、珍妙で或る。
通説には、十人の声を同時に聞いた、だの額から七色の光線を放った、だの言われる
所謂「伝説」の中で、名付けられたとされる。
一笑に付す。作り話で生まれた名。演劇の役名と変わらぬ。
いっそ敗戰の折に、「ジャパン」なぞに変へれば良かったのに。
アメリカ合衆国、アメリカ、なぞと例の国の人は呼ぶ、しかしそんなもの、覚えて居なくても構わないファースト・ネームだ。
ダグラス・マッカーサー元帥を「ダグラス」と呼ぶやうな異端だ。
やれ年号だの、つまらないものを、鳥の糞を自ずから採りに行き、未だに使うて居る。
これもまた、「伝説」に縋り、たいそう雅な名前を付ける。
大の大人が数十人も集まって、何日も卓を囲んで、ああだこうだ言うて、大層大仰に、これほど素晴らしい名前を付けたぞ、と発表する。
学習発表会の童のごとく、たいへん誇らしげに。
素直にグレゴリオ暦に従っておけば良いものを、わざ、わざと変へて言ひ、書く。
気色の惡い、島国根性とでも言ったところだ。
なぞと、輸入した酒を飲みながら、考へた。