金○
AM1:00。
「122番、ひと箱」
「560円です。」
そう言って、バーコードをスキャンした。
客は自動レジで会計を済ませ、帰っていった。
高くなったなあ、と思う。ひと箱で560円もするのか。
あれ、なんで自分は、吸ってもないものの値段なんて覚えているんだろう。
振り返って「122番」と称されたものを見た。
ああ、そういうことか。
と内心でつぶやいて、合点がいった。
長方形の箱に、山を模したーいや、たしかもっとワイセツなものだって言っていたっけー金色がMの形に、明朝体のようにやけにしっかりとした字体で、名前が白く、凸版で書かれている。
「お疲れ様です。」
AM5:00
晴れやか賑やかな雑踏を、俯きながら帰路に就く。
ゴールが決まっている直線上の点Pみたいに。あれ、決まっているのは線分だっけ、なんてどうでもよいことを考えながら。
どんちゃん真っ只中の街から、ふと一筋の煙が見えた。
今にも消えてしまいそうな、仄かな赤をたたえながら。
ーどれも同じに見えるけど、味とか香りは違うんだよー
そういえば、あの香りにそっくりだ。
犬じゃないし、完璧にそうだとは言えないけれど。
ぼう、っとして立っていると、くゆる煙は街に消えていった。
自分は、心が狭いのだろうか。
ベランダでほたる火を灯す人への恋慕を歌う人もいる、なのに。
どうしても、好きになれなかった。
一筋の煙に無限の夢を見るなんて、海外の童話みたいですこし可笑しい。
なんだか口惜しくなって、酒屋に戻った。
AM5:26
「すみません、122番を、ひと、、いや二箱ください。」